最近たまに話題にのぼるゲノム編集の魚やトマト。なんとなく気持ち悪いけれど、なにが問題なのか、遺伝子組み換え(GMO)となにがちがうのか知りたくて、9月23日に京都でひらかれた集会に顔をだした。
基調講演は安田節子さん、第2部は天笠啓佑さんと河田昌東さん、第3部のパネルディスカッションは印鑰智哉さんと松平尚也さんとNOCOさん。会場に300人、ズームで300人があつまった。
「遺伝子組み換え」の現状
「遺伝子組み換え(GMO)」の食品が誕生したのは1998年。除草剤耐性の大豆や、甘味料につかわれるトウモロコシなどがひろがり、動物の最初はサケだった。米国のアクアバウンティー社が、夏しか成長しないサーモンを年中成長できるよう、キングサーモンの成長ホルモン遺伝子と通年で成長するゲンゲの遺伝子をアトランティックサーモンにくみこんだ。出荷サイズまで育つ期間が3年から1年半に短縮された。
だが、急激な成長に内臓がたえられず胃の破裂などで3分の1が早死にした。開発したアクアバウンティー社は2023年2月、カナダでの生産を中止し、株価は暴落した。
遺伝子組み換え食品は表示義務があるため、消費者にきらわれ、広がりにかけた。その反省から欧州で生まれたのがゲノム編集だった。
ゲノム編集とは
GMOは、外部の遺伝子をくみこむが、ゲノム編集は、その動植物の遺伝子の一部を切断することで、GMOと同様の効果を発揮しようとする。
日本では2019年にみとめられ、政府は「外部の遺伝子を入れるわけではなく、自然界の突然変異とかわらない」と、ゲノム編集食品では「安全性評価」と「表示」を不要とした。
これまでに筑波大発サナテックシード社が「GABA高畜トマト」をつくり、京都大・近畿大のリージョナルフィッシュ社が「肉厚マダイ」と「成長のはやいトラフグ」をつくりだした。
マッスルマダイは、成長ホルモンを抑制する遺伝子を壊すことで、成長ホルモンをつくりつづけるようにした。通常のマダイより1.5倍も肉厚だが、体長はみじかい。
成長の早いトラフグは、食欲抑制ホルモン「レプチン」の受容体をつくる遺伝子をこわすことで満腹感をかんじなくさせ、超肥満魚をつくりだした。
さらにリージョナルフィッシュ社は「高温耐性ヒラメ」を九州で養殖しようとしている。
これは「エピゲノム編集」という欧州由来のあたらしい手法をもちいる。ゲノム編集のように遺伝子を破壊するのではなく、遺伝子の構造はそのままに、特定の遺伝子を動かしたり止めたりするスイッチを制御するという技術だ。これも、欧州のきびしい規制ををのがれるために開発された。
このほか、昆虫食をすすめるため、巨大コオロギをつくりだす研究もすすめられている。食用というより、養殖用飼料にするのが目的だという。細胞培養肉は、シンガポールにつづいて米国で培養鶏肉のチキンナゲット販売を許可した(2023年3月)。
巨大なコオロギや工場で製造される「肉」。SFのような薄気味悪い光景が目の前に近づいているのだ。
逆にイタリアは培養肉の製造と販売を禁止したという。
ゲノム編集は安全か
不健康な超肥満体をつくるだけでも動物虐待のそしりをまぬがれないが、外部から遺伝子を導入しないゲノム編集は「安全」なのか?
「自然界の突然変異とかわらない」という政府の見解について安田さんは「突然変異は自然界では10万から100万分の1の確率。ゲノム編集は自然ではおこりえない頻度で、似通った多数の遺伝子に同時に変異をひきおこす」。河田さんは「DNAの2本の鎖を切り取ることがおきるのは自然界ではきわめてまれ。強烈な放射線をあてるなどしないとおこることではない」と説明する。
また、CRISPR/Cas9という手法で標的の遺伝子を切断する際、標的以外の場所にも大規模なゲノムの削除と挿入が発生した。
「既存のアレルギーをおこす物質がないから『大丈夫』といっているが、想定外のタンパク質がつくられる可能性がある。安全性のチェックも動物実験もしていない。日本人はゲノム編集食品のモルモットにさせられようとしている」(河田さん)
京大は天笠さんらの質問状にたいして「全ゲノム解析をする」とこたえたが、その内容は公開されていない。
原発や汚染水問題との類似点
1970年ごろ、原子力発電所がつぎつぎ建設される際、「事故は100万年に1度」「ロケットで宇宙に廃棄物は捨てられるようになる」などと推進派は主張した。「生命操作は原子力技術とにている。原子力よりさらにあぶない可能性がある」と河田さんは指摘する。
福島第一原発の汚染水問題とも似ているという。
東電はトリチウム水で養殖したヒラメをふつうの水にもどすとトリチウムの数値がさがる、という実験をしている。河田さんはこの実験を「無意味」という。
汚染水のなかにある微生物やプランクトンはトリチウムをすでにとりこんでいる。トリチウムが遺伝子にとりこまれると、その遺伝子がこわれるまで、細胞からでることがない。植物プランクトンのトリチウムを魚が食べると濃縮してしまう……。
「環境」名目にゲノム編集推進
「ゲノム編集」をはじめとしたフードテック(新しい技術で新しい食べものをつくること)は「国策」に位置づけられている。
2022年7月に施行された「みどりの食料システム法」は、有機農業を50倍にする目標をかかげたのはよいが、それとだきあわせてゲノム農作物の開発ももりこんだ。カドミウム汚染やヒ素汚染につよいコメをゲノム編集でつくりだす研究もすすめられ、化学肥料や農薬のかわりに遺伝子組み換えの微生物をまくというとりくみも米国ではじまっている。
「政府が補助金をだし、大学と企業をまきこみ、原発村ならぬ「ゲノム編集村」ともいえる利益共同団体を税金をつかって形成しようとしている」(印鑰さん)
「大手資本が地域の漁業にはいってくる枠組みのなかでリージョナルフィッシュもとらえる必要がある」「CRISPRなどの特許はすべて多国籍企業が持っている」と松平さんは指摘し、「国連は、小規模漁業(小規模農業も)を重視するようになってきている。持続可能な漁業、「地魚」こそが未来の海をまもる最先端のとりくみだ」と話す。
地域でもぐらたたきを
ではどうやって、国策に対抗するのか。
「ゲノム編集の問題点をうったえても、なかなかマスコミにとりあげられなかったが、NOCOさんらが宮津の地元で声をあげることで、地元紙に記事がでるようになった。ゲノム編集トマトの小学校への無料配布にたいして『うけとらないで』という働きかけも力になっている。自治体は私たちの声を聞かざるを得ない」「リージョナル社は生産力を20倍にしようとしている。稚魚をそだて、各地の養殖場に出荷する。養殖場は届け出だけでよいからなかなか見えてこない。地元でへんな動きがないかチェックしてほしい」(印鑰さん)
最後に舞台にたった鳴門魚類株式会社(徳島県)の山本章博社長のあいさつは喝采をあびた。
「遺伝子組み換えは多くの人が反対してきたから、選ぶ側の権利はなんとか死守できた。モグラたたきをしましょうよ。相手が根負けするまでたたきつづけましょう。……弊社は(ゲノム編集の魚を)とりあつかうことも、買うことも、かかわることもしません!」