大阪観光といえば、大坂城やUSJが定番だけど、私が知人をよく案内するのは「ディープ大阪」です。30年前から歩いているけど、時代とともに様変わりしてきたので、備忘録がわりに記録しておきます。
JR環状線の新今宮駅に集合し、まずは日本最大の日雇い労働者の町、釜ヶ崎(あいりん地区)へ。

新今宮駅前にあった「あいりん総合センター」は、医療センターやあぶれ手当(日雇労働求職者給付金)の窓口などがあり、毎日のように労働者の長い列ができていた。仕事にあぶれてドヤ(簡易宿泊所)に泊まれない人たちは、昼間からセンターの堅い床にゴロゴロところがっていた。
1970年築の建物は耐震性を理由に2019年に閉鎖され、人々は立ち退きをもとめられた。野宿者には大切な「家」であり、屋根があって時間をつぶせる貴重な場だから、反対運動がおき、ビルの周囲にゴミの山のバリケードが築かれた。

だが2024年、大阪府が立ち退きをもとめた裁判で野宿者側の敗訴が確定。2025年6月にたずねると、建物はほぼとりこわされていた。
センター周辺にはドヤ(簡易宿泊所)が軒をつらねる。1997年に私が2カ月滞在したときは、エアコンなしの古いドヤは600円、きれいな施設は1500円ほどだった。今も600円のドヤはあるようだが、多くは生活保護をうけるための「住居」や旅行者むけの安宿に転換している。

地区内には「希望の家」「旅路の里」「こどもの家」といった野宿者や子どもを支援する団体の拠点ももうけられている。
おっちゃんたちが道にすわりこんで昼間から酒をのむ前を、スーツケースをガラガラひく旅行者が行き交うのは不思議な風景だ。
「三角公園」は巨大な屋外テレビがあり、祭りやコンサートがひらかれる釜ヶ崎の中心だ。将棋や花札、丁半博打を楽しんでいる。
萩ノ茶屋商店街には1杯150円の生ビールをだす店があったが、たまに酸っぱくてすえたにおいのビールにあたることがあった。「あまったビールをあつめて売ってるんや」ときかされて、さもありなんと思った。
地区内に城のようにそびえる西成警察署は権力の象徴であり、労働者の「敵」だった。
1997年当時、その警察署の真裏で、ヤクザの下っ端が1パケ数千円で覚醒剤を販売していた。日雇い労働者はつっかけをはいているが、売人は走って逃げられるようにスニーカーだから「こいつは売人や」と私にもわかった。
「警察はやくざとつながってるんや。これを見たらおまえでもわかるやろ」
日雇い労働者の組合のオッちゃんは警察とヤクザは同類とみなしていた。
あいりん地区を東に抜けて、堺筋をわたると日本最大の遊郭「飛田新地」だ。約150軒の「料亭」がならんでいる。

入口にはきれいなお姉さんがすわっていて、隣の「やり手婆」が「お兄さん、寄ってって」と声をかけてくる。料金は……15分1万1000円、20分1万6000円……と説明された記憶があるけど、今は値上がりしているかもしれない。

店の女の子の写真を撮るのは厳禁で、そもそもカメラをもち歩く場所ではない。ただ、かつての遊郭を活用した居酒屋「鯛よし百番」(登録有形文化財)だけは女性も出入りできて、撮影もできる。最近は外国人旅行者に人気らしい。

古い商店街を北にたどる。一時はシャッターだらけだった商店街には、女の子がいるカラオケ店が何十軒もならぶ。

「ドン」とよばれる中国人経営者が格安料金を売りに2012年ごろから次々に開店した。おかげで近辺の地価は上昇に転じたそうだ。


JR環状線をくぐって北側にでると「じゃりン子チエ」の世界だ。天才棋士・阪田三吉の出身地であり、「じゃんじゃん横丁」にある老舗将棋クラブ「 三桂 クラブ」は将棋ファンでにぎわっていた。
ところが、2025年6月に訪れると「クラブ」は消えている。
コロナの影響もあって、2024年6月末で閉じてしまい、「王将倶楽部」という名の串かつ屋になったのだ。

じゃんじゃん横丁をぬけると「新世界」だ。
2005年には住民のための店もけっこうあったが、インバウンド観光客が急増して、観光客向けの飲食店だらけになった。


今回(2025年)は「通天閣」の足下にある「タワーナイブズ」という刃物の店にはじめてはいった。マグロの解体につかう巨大な包丁は200万円。職人がつくった和包丁のにぶい輝きが美しい。大きなそば切り包丁がほしくなる。「研ぎも」もしていて、万能包丁なら1400円ほどだ。カナダ出身でデンマーク育ちの男性が日本の刃物にほれこんで2011年に開店し、東京スカイツリーの下にも支店をもうけたという。
ディープツアーの最後は、新世界に林立する串焼きの店でしめくくる。


今回は、ちょっと奥まった路地にある「酒の穴」という店にはいった。串焼き以外にも八宝菜や土手焼き、マグロの刺身などのおかずも豊富だ。吉田類も来店したという。

最後の写真は昭和をかんじる射的場。「実弾禁止」というどぎつい張り紙がディープ大阪らしい。