2日目の朝、バンドエイドをめくると、血はジワジワにじむ程度だ。
休日診療の病院に電話で相談したら、「出血がだいたいとまって、腫れていないなら週明けでもよいでしょう。気になるようならきてください」とのこと。せっかくの夏休み、病院で時間をつぶすのはもったいない。
シオモトの案内で、若松鉱山というクロム鉱山跡にでかける。
若松鉱山は1905(明治38)年から操業を開始した日本最大のクロム鉱山だった。クロムは、製鉄炉の壁となる耐火レンガの原料だった。この地域(多里)には、若松鉱山のほか広瀬鉱山、日野上鉱山があり、多里の中心には映画館もあったという。若松鉱山は1996年(平成8年)まで操業し、97年に閉山した。
林道で軽トラの荷台にのりかえて、林道をのぼりつめた標高700メートルの斜面に宇宙人の秘密基地のような建物がそびえている。
腕を下にたらすとズキズキするから、「ファックユー」ポーズで遺構をめぐる。
山の上で採掘した鉱石をトロッコなどで選鉱場に運搬し、そこでくだいて選別し、一番下でトラックにつみこんで出荷された。その工程でつかわれた機械がすべてそのままのこっている。でも風雪で荒廃がすすんでおり、数年後には立入は危険になるだろう。
作業工程を逆行するかたちで、下から案内してもらう。「選鉱所」はくだいた鉱石を水の力で分類する。等級別にわけたものをベルトコンベアでトラックの荷台におとす。
選鉱所の一番上には巨大な岩をくだく「ジョークラッシャー」というたいそうな名前の機械がある。
トロッコの軌道や索道の施設、舞茸の栽培をした跡……などなど。
坑道内での動力源である圧搾空気をつくるコンプレッサーがある部屋は「圧気室」と名づけられている。
さらにのぼると、採掘の現場事務所がある。ダルマストーブや作業日誌などがのこっている。鉱石の等級別のサンプルもならべられている。
機械の修理などをする工作所の奥の休憩所には、なつかしい昭和のエロ本がちらばっていた。日活ロマンポルノをこよなく愛するセージはくらいつくように精読していた。
坑口をふさいだ鉄板の一部をあけると、すきまからゴーという音をたてて冷たい風がふきだした。天然のクーラーだ。一気に汗がひいた。(つづく)