コツボのうんこ
鳥取県日南町でシオモトが運営する体験民泊「やげ家」を半年ぶりにたずねることになった。
今回は、夏も参加した公務員コージと弁護士コツボにくわえて、教師ヤマネがくわわった。
オレ以外の3人はコツボ号で移動し、オレはフィットで中国自動車道をおいかけるかたちに。
「勝央SAで休憩中」というメッセージがはいった。勝央を通過したのは20分後だから、コツボ号はかなり先行している。おいつけないだろう。
「蒜山SAで休憩予定」とつたえた。
蒜山で雪山の大山をながめていると、10分ほどたってコツボ号が到着した。
「やけにおそかったやん」
コツボが言い訳がましく言った。
「うんこしててん。きょう3回目や」
学生時代の隠岐サバイバルでは、コツボは巨大なうんこをところかまわずぶちまけてていた。40年たっても「うんこ」かよ。
道の駅奥大山でソバを食って午後2時ごろに「やげ屋」に到着した。
コージの願い
コージは学生時代から、おむすび型の顔におむすび型の体型で、なまけものを旨としていた。海辺のサバイバルでは、快適にすわれる「コージ岩」を焚き火のそばにおき、寝るときと食べるとき以外はほとんどすわりつづけていた。
そのコージが今回の旅の打ち合わせでひとつだけ要望を口にした。
「かまくらのなかで熱燗をのみたい」

1週間前はドカ雪で1メートルちかい積雪だったらしいが、4月中旬なみというあたたかさがつづいて、ほとんど雪は消えている。ただ、「やげ屋」の軒先には、シオモトがコージのためにあつめた雪の小山がある。
「コージ、これだけの雪じゃ、かまくらは無理やな」とオレ。
「しゃあないなぁ。ま、酒飲めればええわ」

ただ、この日はかまくら以外の予定はいれていない。午後2時から飲みはじめたら日が暮れるころにはできあがってしまう。コツボがつぶやいた。
「小さいヤツならできるんちゃう? とりあえず、雪をあつめて山だけつくらんか?」
「さすがにこの雪じゃむりやろ」と教師ヤマネ。
コツボはヤマネにむかって言った。
「ヤマネ先生、こういう困難な課題に直面したとき、生徒にどんなアドバイスをするんですか」
ヤマネはふんぞりかえってこたえた。
「できんものはできん。人生、あきらめが肝心や」
ヤマネの実況中継

長靴をはいて、スコップを手にして外にでると、目出し帽をかぶった銀行強盗のような男がいる。顔をかくしても、体型とうごきのにぶさでだれかはわかる。
「ミイラ男から連想したコスチュームや。寒いかなとおもってアマゾンで買ったんやけど、暑いわー」

周囲の雪を一輪車であつめてつみあげる。50メートル先の雪は軽トラックではこんできた。

ヤマネがスマホで自撮りしながらえらそうに解説をはじめる。
「えー、山の高さは2メートルほどに達しました。ちなみに作業しているおっさんたちはそろそろ限界に近づいております」
「おまえはユーチューバーか!」
学校の授業で上映するつもりらしい。
雪の山は2時間ほどで高さ2メートルになった。
「だいぶ大きくなったなぁ。こんなんでええんちゃう?」
つかれきったコージがもらすとシオモトはかぶりをふった。
「上からふみかためなあかん。フジー、ひまなら上にのぼれ」

のぼって、ふみかためるつもりがズボッズボッとはまって長靴のなかに雪がなだれこむ。冷たくて足の指の感覚がなくなる。
20分も奮闘するとてっぺんはかたくなってきたが、斜面はそうはいかない。ふめば大崩れする。
「フジー、またこわしたんか!」
「フジー、ぜんぶおまえがやりなおせ!」
まじめに仕事をするほど非難が集中するというのはサラリーマン社会ではよくある話だ。
ヤマネの説教

2時間後、シオモトが全員のうごきをとめて宣言した。
「こんなもんでええやろ。入口を切ろうか」
島根出身のヤマネは子どものころかまくらをつくったことがある。なれた手つきでザクザクっと穴をほりはじめる。

四つんばいになって穴にはいって天井と奥をけずって空間をひろげる。狭い穴でちぢこまって作業すると足がつる。
「あたた、あかんわ」
オレは2分ほどでギブアップ。コージは30秒だけ作業してすぐにでてきた。
「爪痕は残したぜ」
こういうときは小柄なヤマネが大活躍する。
「ヤマネ先生、さすがですね。絶好調やないですか」
隠岐でのサバイバルでアワビをとって以来、40年ぶりに活躍するヤマネをたたえると説教しはじめた。
「なかなか、おまえらもよーやっとる。こうやって教師が先頭に立ってやるからみんながついてくるんや」
2人がすわれるほどの空間をつくってはいだしてきて、スマホにむかって実況中継。
「雪山のなかにこういう穴を掘ることができました。約2時間がんばった成果です。みなさん。人生はひとつひとつ、一步一步やっていきましょう」
「人生あきらめたらだめやね、ネバギバでいきましょう」
ついさっき「人生あきらめが肝心」って言ってたんちゃうんか!
コツボの穴掘り

完成を記念して、コージが入口の上にデストロイヤーの目出し帽をかざった。
ところがここからコツボが穴にはいって猛然とスコップをふるいはじめた。
10分たっても20分たってもでてこない。
「コツボ、もうええやろ」
声をかけるが無視してほりつづける。
「おれらは酒のむぞ」
アルコールを目の前にぶらせげても聞く耳をもたない。
30分ちかく無言で作業をつづけたあと、やっと穴からでてきた。
「穴掘り、むっちゃ楽しいわぁ、はまるわあ」
ひとつ夢中になると周囲がまったく見えなくなる性格は昔からかわらない。学生時代、女の子に夢中になるたびに「彼女のことかんがえるだけで腹がいたくなってきたー」と寝こんでいた。今回も、達成感から酒をのみすぎて、翌日は昼まで寝こんでまったく役にたたなかった。
かまくらづくりの功労者であるコツボとヤマネのため、オレは風呂のボイラーに薪をくべる役割をかってでた。かまくらでロウソクをともす竹の燭台もシオモトの指導で制作した。

コージの瞑想

鹿肉やおでんなど、大ごちそうを食べたあと外にでると、満天の星がかがやいている。
ホットワインや酒を手にかまくらで乾杯!
「やりきったってかんじやわー」
コツボは単純であつくるしい感想をのべる。夢を実現したナマケモノのコージはしみじみとかたる。
「もつべきものは働き者の友ということで……」
そしてヤマネ先生の最後の実況中継がはじまる。
「ただいま11時です。今夜は夜通し満喫したいと思います。……それではみなさん、よいお年を!」
なんで2月に「よいお年を」やねん!

午前1時前、そろそろ寝るか、と家にはいろうとしたらコージがいない。
さがしたら、かまくらのなかで、ユラユラゆれるろうそくの灯にてらされて、あぐらをかいて居眠りしている。

「瞑想したらなんか(悟りが)見えてきそうな気がしたんやけど、なんや見えへんわー」
瞑想と居眠りをかんちがいしているらしい。
コージが瞑想したかまくらは、学生時代の「コージ岩」にあやかって「コージ穴」と名づけられた。(つづく)
【こちらは↓動画です】
