美ら海水族館
人混みがきらいだから、有名観光施設はほぼスルーしてきた。2025年7月、名護に泊まってヤンバルを歩くつもりだったが台風が襲来した。しかたがない。「沖縄美ら海水族館」(本部町)で時間をつぶそう。
名護から水族館までは車で30分ほど。駐車場の手前で渋滞していてひるんだが15分で入れた。朝一番だからまだましだったようだ。(入場料2180円)

まずはイノー(サンゴ礁にかこまれた浅い海)にすむ身近な生物から。色とりどりの小魚やヤシガニが楽しい。「目ん玉うごいた!」「むっちゃでかい!」……と子どもは大騒ぎ。
珊瑚礁の海底洞窟のコーナーには久高島で食べたエラブウミヘビ(イラブー)も。ハブの80倍の毒をもっているという。そのほか、ヒョモンダコやオコゼなどが「危険な生物」としてあげられている。

海藻のコーナーでは海面に浮いているホンダワラの生態が興味深い。マングローブの魚も地味だけどおもしろい。

身近な海の魚介類を堪能したあとに、「黒潮の海」のコーナーに入る。3、4階建てビルほどもある巨大水槽では、体長5メートル超のジンベイザメが悠々と泳ぎ、マンタが目の前で羽ばたく。ジンベイザメの体長を測るため3、4人のダイバーがいっしょに潜っている。

「でけー」「人がいる!」「身長測ってる!」。子どもは大興奮。水族館って子どもの心をわしづかみにする力があるんだなぁ。
サメは、ホオジロザメのような肉食のサメは鋭い歯があり、ジンベイザメは海中のプランクトンを濾過するように吸い込む。卵生と胎生のサメがいるとははじめて知った。深海魚の捕獲と飼育は、暗くて冷たい環境を作るだけでなく水圧にも慣らさなければならないという。
沖縄の海を知るにはもってこいの施設だ。

本館からでると「ウミガメ館」と「マナティ館」がある。マナティは海牛類で大西洋に生息している。メキシコから寄贈された。インド洋や太平洋に生息するジュゴンとよく似ている。
2時間ほど堪能した。
備瀬のフクギ並木

本部半島の先端にある「備瀬のフクギ並木」は、これまでなぜ立ち寄らなかったのだろう。その存在に気づいていなかったのかも。水族館からは車で5分。駐車場も多いから観光地としても知られているようだ。中国人観光客もけっこう多い。

備瀬の集落は本部半島先端の、南北に伸びる砂丘上にある。縄文前期の土器が出土し、近くに聖地グスク山がある。古い集落で、古老やノロ・神人・ユタの言動が陰の力として大きな力をもち、祖霊神に対する「こだわり」「信仰心」がきわめて強い……と「本部町史」に記されている。
縦断する道路と東西に交叉する道で碁盤目型に区画され、それぞれの屋敷が防潮・防風・防火に適した福木(フクギ)で囲まれている。
「フクギ並木」というが、1本の道沿いにある並木ではなく、集落のほとんどすべてがフクギにおおわれているのだ。フクギのトンネルを抜けると、明るい海が眼前に広がり、乳首のような山がそびえる伊江島がうかんでいる。

昭和59(1984)年刊行の「備瀬史」(仲田栄松編)によると、戦前の福木並木ははるかに鬱蒼としていて、大樹の福木が枝を重ねて昼でも薄暗く密林のようだった。1933(昭和8)年に部落の中央道路の拡張によって大木が伐採され、戦後は建築資材の不足から家屋の建材につかわれた。さらに1969年、北部地域全電化にあたって配線工事に支障があることを理由に4メートルの高さでバッサリ切られた。戦前における備瀬ナンバーワンの大福木は大人3人でも囲えないほどだったが、戦争の爆弾投下で吹き飛ばされた。

また 海岸線にはアダンがずらりと植えられ、高波から集落を守っていた。アダン林は、漁夫たちの憩いの場であり、海水浴の際に着替えるのにもってこいの場所だった。米軍が上陸してきた際には女性や子どもが身を守るためにアダン林に隠れた。一方、林内はゴミ捨て場と化し、鼻もゆがむような臭気が漂っていた。アダン林は、1975年の沖縄海洋博にともなう護岸工事ですべて伐採されてしまった。
海洋博では、不動産業者やブローカーが周囲の畑や原野を買いあさった。
家々を訪問し、鞄いっぱいのゲンナマをちらつかせて、住民が仕事にならないほどつきまとった。海洋博計画の前までは1坪300円もしなかった原野が最終的に2万円に達した。
海洋博会場建設計画が決まった当初、備瀬崎も一部地域が立ち退きになるという噂がながれて、人々は動揺したが、立ち退きがないと判明して胸を撫で下ろしたという。
おだやかで心地よい名所にもさまざまな歴史があるのだ。

この日は那覇までもどり、波上宮に近い「民宿たつや旅館」に泊まった。1泊6000円(直接申し込めば3000円の部屋もあるようだ)。建物は古いけど、部屋はベッド2つと勉強机とソファー、風呂もトイレもそなえている。冷蔵庫の飲み物は自由に飲めて、朝食用のパンも用意されている。Wi-Fiが遅いことをのぞけば最高の宿だった。