「瀬戸内」はシーボルトが「発明」
瀬戸大橋ができる前、岡山から宇野にでて、宇高連絡船の甲板でうどんを食べた。いまは瀬戸大橋ができて、宇野港へは茶屋町駅で乗りかえなければならない。
ローカル線なのに、外国人だらけ。そのほとんどが直島や豊島のアートを見にいくらしい。
宇野港からフェリーにのると、四方に島がうかんでいる。瀬戸内には周囲100メートル以上の島が727もあり、多島海の景色は、幕末から明治にかけておとずれた外国人を「ユートピアみたいだ」と感動させた。シーボルトが「The Inland Sea」としるし、それを翻訳したのが「瀬戸内海」だという。当時の日本人は「燧灘」や「伊予灘」は認識していたが、全体を「瀬戸内海」としてとらえてはいなかったのだ。
そういえば、フェリーの上にもアートらしきものがかざられていた。
20分ほどで直島の宮浦港に上陸した。
安藤忠雄と作家のコラボ美術館
港の突端に草間弥生の赤いカボチャのオブジェがある。
町営バスにのって終点「つつじ荘」でおり、ベネッセの無料バスにのりかえる。ここからはベネッセの私有地だ。7分ほどで終点の「地中美術館」についた。
チケットセンターから入口にむかう途中、モネのスイレンをイメージした池がある。
安藤忠雄のコンクリート打ちっ放しの建物の大半は地下につくられ、天井に明かりとりの窓がもうけられている。その大きさや明るさも、作品のイメージにあわせて調整している。
靴を脱いでモネの部屋へ。フワフワの床の暗い部屋のむこうに巨大な夜のスイレンの絵がある。暗い部屋から見ると、光の額縁にいろどられているようにみえる。別の壁には朝や昼のスイレンの絵が4枚かざられている。
次の作者の部屋は真っ暗だ。光のあたった壁にむかって階段をのぼる。
「壁のなかにあるいてください」
えっ? おそるおそる足をふみいれると、「勇者ライディーン」の「フェードイン」のように、壁のなかにはいってしまう。不思議な感覚だ。こんなアートもありうるのか。
階段状の部屋の中央に巨大な丸石のオブジェをおき、周囲には金箔をほどこした木柱をならべてモスクのようにした部屋も興味深い。丸石はご神体あつかいだ。山梨の道祖神やコスタリカの丸石信仰を参考にしたのだろうか。
海をのぞむカフェで休憩して、バスで来た道を歩いてもどる。
李禹煥(リー・ウーファン)美術館は、彼の作品とそれを収容する安藤忠雄建築によって空間そのものが作品にしたてられている。
風刺に充ちた現代アート
美術館とホテルが一体化した「ベネッセ・ハウス」内は自由に撮影できる。
毛沢東やらソ連の指導者をかたどった「ディズニー」とか、「禁じられた箱」からふきだす煙を模した布に憲法九条の条文がしるされているとか……風刺が効いていておもろい。
海沿いの桟橋近くの地下にも丸石のオブジェがあった。
「杉本博司ギャラリー」は時間がなくて見学できなかった。
沖合にうかぶ三角形のおにぎり型の島が気になってしかたがない。どの方向から見てもきれいなおむすび。大槌島という無人島だ。きっと信仰の対象なのだろう。
あちこちの作品を鑑賞しながら「つつじ荘」にもどった。
堤防の先端のオレンジ色のカボチャがかわいい。日が暮れるとライトアップされた。宮浦港のものより小さいけど、ギュッとつまった質感があり、こちらのほうが好きかな。
宿泊は、町営バス終点にある「つつじ荘」のパオ。2食つき1万円。トイレもシャワーも別棟で、施設は安っぽいけど、ジンギスカンの食事はボリュームもあっておいしかった。(つづく)