オオサンショウウオと暮らすための50のこと<清水則雄・山﨑大海>

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 オオサンショウウオって特別天然記念物だけど、なにが貴重でなにが魅力なのかわからなかった。それを知るのにかっこうの入門書。漫画があるのもありがたい。
 以下要約。

 オオサンショウウオは、中国地方の山間部を中心に分布していて、岐阜県より西にしかいない。日本列島は1600万年〜1100万年前に形成されたが、フォッサマグナ以東は海に浮き沈みする時期があった。だからオオサンショウウオは東日本にいないという。
 世界では中国とアメリカに生息している。チュウゴクオオサンショウウオは食用に養殖されているが、川からはほぼ絶滅した。日本でも1952年の特別天然記念物指定までは、寿司で食べたり、火をつけた稲わらで焼いて食べたりもした。
 イリオモテヤマネコやトキ、ニホンカワウソとともに特別天然記念物であり、レッドデータブックの絶滅危惧種とちがって罰則つきで保護されている。天然記念物には、種を指定する場合と、生息地を指定する場合があり、スナメリやカブトガニやナメクジウオなどは「保護区」でのみ保護されているが、オオサンショウウオは「種」で指定されているから、すべての場所で守られている。

 クジラが大きくなれたのは、水中で浮力が働き、体を支える構造を屈強にする必要がなかったから。大きくなりすぎると動作が緩慢になり、補食能力が低下するが、シロナガスクジラは移動能力の低いオキアミを食べることで、象は動かない植物を食べることで対応した。
 世界最大の両生類であるオオサンショウウオは、待ち伏せ型の捕食をすることで移動能力の低さを補っている。
 口が大きく、半分に裂けたように見えることから「ハンザケ」とよばれ、勢いよく口を開くことで陰圧をおこし、餌をすいこむ。
 夜に活動するのは、主な餌であるカニやエビが夜行性で夜のほうが遭遇率が高まるし、動きのはやい魚は夜は寝ているから昼よりつかまえられる。さらに、幼生の天敵である鳥類は昼行性だから夜は安心だ。
 オオサンショウウオは夜に活動するから視力は弱い。そのかわり嗅覚が発達している。また、魚類と同様「外耳」がない。耳は脊椎動物が陸にあがって獲得した。カエルに鼓膜があるのは、陸上で鳴き声でコミュニケーションをとるためだ。
  オオサンショウウオの寿命は人間より長い可能性もある。生物の生態を知るには「ライフスパンを2周」見なければならないとされ、寿命1、2年の種でも、全容解明に10年以上かかることがある。オオサンショウウオの研究には、人間の側も世代を重ねる必要がある。そのためマイクロチップを注射器で埋めこむことで「個体登録」(住民票づくり)をすすめている。
 
 オオサンショウウオは人間とほぼ同じ15〜18歳で成熟し、繁殖できるようになる。
 夏が近づくころ、上流部の土手や岩陰にできた巣穴をオスがうばいあい、勝ったオスは巣穴の「ヌシ」となる。7〜8月にヌシは巣穴にはいる。
 繁殖巣穴は、自然の土手の下流に少し開口した横穴が掘られトンネル状になっていて、奥は広い産卵室になり湧水があることが望ましい。そんな穴が見つからないと、次善の策としてコンクリートの割れ目などを利用するが、卵が流れるなど孵化まで到らないことが多い。
 ヌシは、尾や頭を使って巣穴内の掃除をする。掃除や出入りをくり返すことで、繁殖や卵保護に適した形に環境をととのえる。
 9月上旬、巣穴にむかえられたメスは卵を300〜500もうむ。ヌシだけが巣穴にのこり、幼生が巣立つまで保護をつづける。
 巣穴の入口で巨体がにらみをきかせることで、外敵の侵入をふせぐ。最大の武器は、かみついて回転する「デスロール」だ。手足の指のない個体は繁殖期のたたかいによるものと考えられている。死んだ卵は食べて清潔をたもつ。尾を振って卵に新鮮な水を送る。
 4〜5カ月にもおよぶ育児で大幅に体重を減らすヌシもいる。一方、巣穴争奪戦に敗れたオスは、ヌシが子育てに苦労しているあいだ、餌を食べて体を大きくすることができる。この結果、次の繁殖期にはヌシが交代することもある。
 噛み殺されることも覚悟してヌシの穴にもぐりこんで自分の子をのこそうとするオス「スニーカー」もいる。ヌシは、スニーカーを排斥したいが、たくさんのスニーカーがくると、排斥ばかりに力をつかうわけにはいかない。個体の密度の高い場所ほどスニーカーは増える。
 水温がピークから下がりはじめる8月末から9月上旬に産卵し、もっとも水温の下がる1月から2月、孵化した幼生は巣穴をでて、最初は近くの落ち葉のなかなどにかくれている。幼生は清潔な冷水を好む。冬は、捕食者となる生物の動きがにぶい。川底には落ち葉が堆積していて、水生昆虫のすみかとなり、隠れ家にもなる。春から初夏にあたたかくなり落ち葉が分解されていくと、4〜5月までかけて下流に離散していく。
 この時期は川をせきとめ田んぼに水をひく時期であり、ほとんどの幼生が田んぼに流入して死滅している可能性が高い。緊急措置として、田植前に幼生をとらえ、本来流れていくはずの下流に放流している。スロープやバイパス(迂回路)などのハード面の改善や、使わない時期には堰を開放するなどの運用も検討する必要がある。
 椋梨川では、オオサンショウウオの繁殖は自然の河岸が残る上流部や支流の上流にかぎられている。つまり繁殖するには、ダムや利水用の人工堰堤、治水用の砂防堰堤、流れをゆるやかにするための落差工などをこえなければならない。可動式のゴム堰も田んぼに水をひく5月から9月のあいだ生息地を分断してしまっている。中下流域の堰の下には、上流に移動できず、巣穴争いや卵をつくることにエネルギーをつかうことがなく、餌だけ食べて巨大化した個体がいる。大きい個体がいるからといって単純に喜んではいけないのだ。
 オオサンショウウオ保護のため、東広島市豊栄町は、人工堰堤の改修の際、オオサンショウウオが遡上できるスロープを設置することにした。全長60㎝のオオサンショウウオなら25㎝までの段差、30度までの傾斜をこえられる。スロープの途中にプールをつくることが望ましい。
 また、ゲリラ豪雨などによる巣穴消失に対応するため、人工巣穴もつくられ、北広島町では人工巣穴での繁殖が確認されている。
 ハイブリッドの問題も深刻だ。
 かつてチュウゴクオオサンショウウオが食用として輸入されていたが、特別天然記念物になることで、罰則をおそれた人がチュウゴクオオサンショウウオを川に放した。チュウゴクオオサンショウウオやハイブリッドは攻撃的だから高い確率でヌシとなり、増殖していった。京都の鴨川などでは9割以上をハイブリッドが占めるという。

 オオサンショウウオを守るためになにをするべきか。
 すぐにやるべきことは、①痩せ個体の保護 ②遺伝子検査してハイブリッドを隔離 ③田んぼにはいった幼生の下流への放流
 早めにやるべきことは、 ①堰に遡上が可能となるスロープの設置 ②この河川ではどのように一生を送るのかを解明
 将来のためにやることは、①地域への普及活動 ②広域への情報発信 世界に発信して保全にたいする気運を高める。

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