夜と霧 フランクル NHK100分で名著<諸富祥彦>

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 フランクル関連の本は5,6冊よんでいるから、内容に新鮮味はないが、簡潔にフランクルの思想をまとめていてわかりやすかった。
 みずから活動することによって得られる「創造価値」が失われても、だれかと深く愛し合えたという思い出があれば「生きていてよかった」と思える。それが「体験価値」だ。その体験価値がないとしても、 「祈り」などの「態度価値」を実現する精神的自由だけは、どんな劣悪な環境でも、奪い取られることはない。
 こうしたフランクルの思想は、ナチスの収容所での体験によって形成されたと思われがちだが、実は収容所以前にできていた。収容所は思想の強度をためされる場だった。
 「……人生の意味は無条件のもので、いかなる状況においてもそれは失われることはない、と言ってきた。たとえ苦しみが取りのぞかれない時でも、その苦しみから何らかの意味をつかみ取ることができるはずだ、と……。今度はお前自身がそれを生きる番だ」
 収容所でみずからそう言い聞かせていたという。
 苛酷な状況を生きながらえた人は未来への希望を見失わず、祈りや感謝を忘れず、人間を超えた崇高な何かとのつながりを大切にする人たちだった。人に生きる力を与えたのは「精神性の高さ、豊かさ」だった。

 人間のなすべきことは「生きる意味はあるのか」と「人生を問う」ことではなく、さまざまな状況に直面しながら、その都度、「人生から問われていること」(=使命)に全力で答えていくことだ。われわれが人生の意味を問うのではなくて、問われた者として体験している、というコペルニクス的転回が必要だと考えた。
 フランクルによると、幸福は求めようとすると「永遠の欲求不満の状態」に陥ってしまう。自分の幸福を求める「自己中心の生き方」から、「人生からの呼びかけ」に応える「意味と使命中心の生き方」へと転換を求めた。
 また、通常の心理学やカウンセリングは、悩みや苦しみをとりのぞこうとするが、フランクルは、「苦悩」に積極的な意味をみる。ただその苦悩は、「誰かのため」「何かのため」でなければならない。収容所においてフランクルは、人々に生きる力を与え、絶望のなかに小さな希望を見出すための支えになることが自分の使命だと任じた。だから、彼の苦悩は意味を持ち、自分自身の生きる支えにもなった。
 収容所で彼は、人間の生命の存在の無限の意味は、苦悩と死をも含むのだと仲間たちに語った。
 状態の重大さを直視しながらも諦めないことをもとめ、われわれの戦いの見こみのないことは、戦いの意味や尊厳を少しも傷つけるものでないことを意識するよう仲間たちに懇願した。
「あなたがどれほど人生に絶望しても、人生のほうがあなたに絶望することはない」

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