■デンジャラス<桐野夏生>中公文庫
数々の女性と浮名をやつし、それらの女性をモデルにした小説を書きつづけた谷崎潤一郞。彼と周囲の女たちの姿を、3番目の妻・松子の妹である重子の視点から描いた小説。
最初の妻千代は貞淑で谷崎の趣味にあわず、その妹で奔放な性格のせい子に夢中になった。その後、妻の千代を佐藤春夫に「譲渡」し、若い丁未子(とみこ)と結婚するが、すぐに追いだし、繊維問屋の人妻だった松子とくっつく。
この小説の語り部である重子は、田邊弘と結婚するが、遊び人の夫とうまくいかず、弘が函館に就職する際についていかず、「兄さん」(谷崎)と松子の家で暮らす。谷崎という「王」と女たちのハーレムを思わせる暮らしが「細雪」にえがかれる。
松子が女王であり、重子はそれを影ながらささえる黒子のような存在だった。谷崎は妻の妹である重子にも「告白」し、それが重子の生きるよすがになる。「細雪」はまさに松子と重子と谷崎の頂点といえる時代を描いていた。
昭和24年に田辺弘は病没する。外から見ると重子は薄幸の人だ。
松子と重子と谷崎の王国は、松子の前夫とのあいだの息子で重子の養子でもある清一の結婚相手、千萬子(ちまこ)の登場できしみはじめる。
結婚時21歳と若くて才気走っており、谷崎の愛はそちらにむかう。2人のあいだではほぼ毎日何年間にもわたって速達が行き来する。
「兄さんの心情は、作品に色濃く表れる……兄さんは、自分の感情の動きこそが小説という芸術の核となっている」。そう思うから重子は自分がモデルとなった「細雪」を生きるよすがと考えた。ところが「夢の浮橋」では、松子と重子は抹殺された。
さらに「瘋癲老人日記」は千萬子の影響下で生まれた。そこでは、息子の嫁の足をなめる老人の姿が描かれる。
薬師寺の如来の足の石よりも君が召したまう沓の下こそ
という淫靡な歌もしるした。
千萬子にねだられるままに高級品やカネも与え、ついには京都の法然院近くに家も買い与える。
松子も重子も調子にのっている千萬子が気に入らない。あせりと妬みにさいなまれる。谷崎が79歳で死ぬ数カ月前、「わたしたちか千萬子を選べ」と重子は谷崎につめよる。
そして……最後に谷崎の愛を獲得したのは……
最後の場面のシュールさにはうなった。
デンジャラス<桐野夏生>
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