復活の廃寺に蛸みこし 穴水曽良の千手院で「いのちの研究会」

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 穴水町曽良の海臨山千手院は住職がいなって檀家はゼロになり、縄文焼きを制作していた新出良一さんが2017年に亡くなったあとは荒れるにまかせていた。この廃寺に2024年元日の能登半島地震後、北原密蓮さんが住職に就任し、穴水町でガソリンスタンドを経営する森本敬一さんが復興ツーリズムの拠点として活用しようとしている。
 10月12日には、宗教学やグリーフケア、文化人類学者らが「災害に向き合う」というテーマで「いのちの研究会」をひらいた。雨もりが修理され、きれいな畳がしかれた本堂には約20人がつどった。鎌田東二さんの法螺貝と石笛で幕をあけた。


 島薗進さん(東京大学名誉教授)は、全国の宗教関係者の被災地支援の様子を紹介した。
 町田宗鳳さん(比較宗教学者、ありがとう寺住職)は、能登の被災者を「日本のために十字架についてくださった。広島も長崎も、日本のイエスキリストであると思ってきた」「どれだけ絶望的でも、祈りの力を深めていただきたい」

 加藤眞三さん(医師)は2011年からはじまったカフェデモンクの経緯をかたり、「病や天災、戦争にあったとき、みんなが苦しみを打ち明け合ってつながる行為が大事」「たわいない話をすることが人と人を近づけ、生きる力をはぐくむ。日本の男性は井戸端会議ができないから心が折れやすい」
 上田紀行さん(文化人類学者)は、楽しい村祭りで病んでいる人をいやすスリランカの悪魔払いの例をあげた。「『おまえなんて関係ないよ』と世界から見られて孤独なときに悪魔が憑く。苦しみがケアされず無視されていることが、二重三重に苦しい。楽しい村祭りをやったら仏さんの世界がかえってくる」「仏教なんて暗いじゃん、という時代がつづいたが、今は時代の転回点。千手観音さまは千の苦しみ悲しみをかんじてきた。苦しみがあればこそ大悲の心を獲得していける。そのなかに人間の美しさがある」
 真脇遺跡縄文館の高田秀樹館長は4000年間もつづいた縄文の村について、「真脇は目の前が海で、春から秋まで回遊してくるイルカをとって食べていた。イノシシも鹿も熊も食べた。食料が豊富だからつづいたんです」と解説した。


 休憩をはさんで第2部は、金沢星稜大や京都大、東北大の研究者らでつくる「能登学プロジェクト」のメンバーが討論した。
「苦難からたてなおすためには、祈りとわかちあいの場が必要」
「心理学者はインタビュー、宗教人類学は祭りの復興、社会学者は漁村コミュニティの復興……現場の人とともに問題意識をくみあげていくのが大事」
「祭りは生きる力をあたえてくれる。みこしをかつぎあげるとき、今までになかった力がでる。なにかを共有することで力がでる」
「被害者のなかで格差ができるとつらい状況にになる。二次的なダメージがでない制度構築をしなければ」……

 ビデオでメッセージをよせた森本さんは「1年休学して能登に滞在する学生を紹介してほしい。泊まるところもあるし、ごはんくらい食べさせますし……」と訴えた。

 最後は「芸術探検家」の野口竜平が「蛸みこし」を披露した。割竹でつくられた蛸の8本の足をひとりずつもってかつぐのだ。
「足がそれぞれ自分で考えて行動している。8人でかつぐと、それが踊りになる。蛸みこしをとおして、タコー(多幸)感につながるかなぁって思うんです」
 本堂でおはらいしたあと外にでて、石段をくだる。竹がグニャグニャして右に左にゆれて踊りのよう。最後は海にどぶんをつける。
 足を10本にしてイカみこしにしたら、イカでまちおこしをしている能登町にぴったりかもしれない。重いキリコをかつげなくなった海辺の集落で、みこしがわりにかついだらおもしろいかも……
 進行役の鎌田さんは「こんな大変な状況で能天気なことやって、って思われるだろうけど、予想をこえる展開はさまざまなことがおきてくる。こういうのが大事なんですよ」
 蛸みこしのもたらす笑いは、未来への不思議な期待感をかんじさせてくれた。

【曽良と千手院のレポートは下記】

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