「不屈の器」

  • URLをコピーしました!

■NHK 250119
 輪島を代表する漆器工房「輪島キリモト」の、能登半島地震からの10カ月間を描いたドキュメンタリー。さすがNHKという作品だった。
 元日に地震が襲い、桐本さんも5人の職人の家も全壊・全焼……となった。
 18日後にようやく電気がくると工房を再開する。木地師の男性は生まれ育った自宅が全焼し、金沢で避難生活をしている。「輪島に住むのはこわい」と言う。愛知に避難している女性職人は「道具はなくなっても技術はなくならない」とつぶやく。でも「仕事をはじめます」と言うのをためらわせるような余震がつづく。
 2月、紙を材料にした仮設工房を建設する。働く場所がなくなって職人たちが離れてしまうのが一番こわい。だから働ける「場」を復活させたのだ。5月、やっと職人全員があつまった。
 震災から半年たって仮設住宅に入居した木地師の男性は、「仕事できるのは楽しいっすよね。削ってるときに無心になれるっていうか……」と前向きになってきた。絵を描く女性は「漆器はもとに直せるんで、何度でも直して商品になれば。町もそういうふうに直っていけばいいかな」。
 ところが9月の豪雨で、仮設住宅も工房も泥水に浸った。8月26日に閉鎖したばかりの避難所が1カ月もたたずに再開された。
 輪島復興のシンボルになってきた桐本さんも、「今回はさすがに参った。……どうしていいか思い浮かばない。でもそういう自分に負けないようにしたい。……自分の足で復興すると言ってきたけど、ちょっと今回は支えてもらわなきゃいけないかもしれんね」。
 キリモトには、倒壊した家から救出された半世紀前の漆器の半製品がもちこまれた。これを新たな漆器としてよみがえらせることにした。
 しわしわにした和紙をはってその上から漆を塗り重ねる。地震でひび割れだらけになった能登が復活することをイメージした。器の外側は、キリモト独特の「千筋」をあしらった。
 職人たちはどん底の状況なのに、目の前にモノがあると、ペンをはしらせ、考え、手が動き、物づくりに熱中していく。そこから生きる力を引き出しているようにみえる。「ものづくり」の人たちのしなやかな力強さ。
 輪島塗は、縁は布ぎせをして下塗りして地の粉を塗り、さらに何度も何度も漆を塗る。抜群の堅牢さが特徴だ。壊れても何度でも直すことができる。
「輪島塗は直したら長く使える。それと同じように、一生懸命がんばって、地震でこわれた町を直して次につながるようにすれば、もっと長くものをつくれるようになる可能性があると思っています」
「教えてもらったものは自分のものでなくみんなのものだから。それをつないでいくのが自分の責任です」
 職人たちは個人の命を超越した、物づくりの「命」を実感し、奮闘している。
 これまで消費者として輪島塗を使ってきたけど、職人の心と命をかんじながら器を手にしようと思った。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次