ある光<阪本繁紀>

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■和歌山下津漫画制作同好会250223

 主人公は歌手をいわき市の女子高生。支えてくれた同級生に恋をして、幼い頃からの親友にさそわれて歌手になるため音楽の専門学校をめざす。
 あたりまえの青春を謳歌しながら2011年3月11日に卒業式をむかえる。夕方の校舎で告白しようと思っていたら、その1時間前に地震と津波がおそう。
 自宅は流され、漁協の会議にでかけていた祖父は帰ってこない。告白しようとした同級生も波にのまれた。親友は両親を失った。
 あたりまえの日々が突然崩れ去ってしまう。
 津波被災地の惨状を「肌は黄色のような血色のない色に変わって、目尻のしわも、鼻も、蝋人形みたいにピクリとも動かなかった」と描き、がれきの下にアルバムを見つけ、「何もかも失ってしまったけど,私たちが紡いできた暮らしはたしかにあったんだ」と思う。
 ある自衛隊員は、津波で妻と息子を亡くし、「生存者捜索のきついところに回してほしい」と頼んで活動し、活動を終えると首を吊った……。

 震災のルポはいくつも読んでいたけど、漫画というストーリーにすると、ふつうの人のふつうの暮らしの尊さとかわいさ、それを一瞬で破壊する災害のおそろしさ、さらには生き残った人間は生きていかなければならないということが等身大で伝わってくる。
 「会えなくなった大事な人の思いを受け継ぐこと その人の分まで精一杯生きること」
 作者の伝えるこのメッセージが全編からあふれている。

 こうやって、ひとりの少女の目から能登の魅力と悲しみをストーリー化できたらいいんだろうなあと思う。民俗文化や震災の記憶を受け継ぐためにも能登に博物館がほしい、と考えているけど、「漫画」で描くともっとよいかもしれない。能登の漫画をつくってくれないかなぁ。

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