■250124
阪神・淡路大震災の1カ月後に生まれた在日韓国人3世の灯(あかり)が主人公。
2世の父は、無一文から苦労してきたのに震災ですべてを失った母の思いを背負って苦悩しつづけている。あかりの母はその重苦しさが嫌で、あかりの成人式の日に夫との別離を選ぶ。あかりの姉は日本国籍へ帰化しようとする。
そんな家庭の軋轢と重荷からあかりは鬱になってしまう。最初にかかった精神科医はパソコンのディスプレイを見て薬を出すだけ。その後、友達にすすめられて、「心の傷を癒すということ」の安克昌医師をモデルにしたと思われる女医とであい、少しずつ回復していく。
鬱がおさまり、就職した設計事務所の男性も傷をかかえていた。男性の父は、震災時に教師で避難所などの運営で活躍したが、その後、アル中で死んだ。男性自身もアルコール依存症で断酒中だった。
その彼と長田区の丸五市場の再建計画にとりくむが挫折する……
在日という育ちや震災によって登場人物のだれもが心に深い傷を負っている。だからこそ「みんなが居場所をもてる場にしたい」という思いに共感し、ベトナム難民の家族やウクライナの一家を受け入れる。自分の傷をノートに記すことで心をなだめてきたあかりも、自分の傷と向き合いながら傷ついた人の心を受け止める存在になっていく。
「みんなもろい 街も、家族も、わたしの心も」
心の傷やトラウマは、簡単に癒えるものではない。一生癒えないかもしれない。でも、みずからの心のもろさを自覚し、傷とともに生きてきた人は、人を救える存在になる可能性もある。
たぶんそんな希望を「あかり」という主人公の名に託したのだろう。
主人公を演じた富田望生は20歳の明るい女の子、鬱を病んだ人、激昂する女、人の痛みをわがこととしてうけいれる人……を、小津安二郎や溝口健二を思わせる何分間にもおよぶ長回しをふくめてみごと演じ切っていた。