野菜自給で貯金、家を改善
モラサン県では「生活改善」の現場をいくつか訪問した。
ホンジュラスとの国境に近いトロラの山の集落に住む女性グレンダ(26歳)は2年ほど前、外国から援助があると期待して「生活改善」の説明会に参加した。「能力開発だけで、金銭の援助はありません」と聞いて最初はがっかりしたが、15人のサークルの例会には欠かさず通った。
例会では、生活の現状を把握して、どんな暮らしをめざしたいか絵に描いてイメージする。それに向けて何ができるかを考え、小さなことからはじめる。
たとえば、コーラなどの清涼飲料や市販の揚げ菓子が体に悪いと知り、庭のオレンジと水で飲料をつくり、子どもにあたえるようにした。
現金収入源のトウモロコシとフリホール(インゲン豆)は栽培していたが、野菜は市場で購入していた。生活改善を通じて、家の周囲でトマトやトウガラシ、ホウレンソウ、チピリンなどの野菜を育て、果樹を植えた。それらを自給することでういたカネは貯金にまわした。
「手元に現金があると服やアクセサリーを衝動買いしてしまい、貯金なんて考えたこともなかった」とグレンダ。彼女自身が貯蓄をはじめるだけでなく、9歳と11歳の子にも貯金させ、学校にかようリュックを買わせた。
そうやって貯めた現金で、土の床をコンクリートでかためた。日干しレンガの壁は、ゴキブリやネズミが出入りできないよう、しっくいで塗りかためた。掃除が行き届いた白壁の部屋にはこぎれいなベッドが並ならんでいる。庭には花を植え、半分に切ったペットボトルを軒下につって花瓶にしている。
家や庭が美しくなると、人を招きたくなる。近所の人とのつきあいも目に見えて増えた。
一方、携帯電話やテレビはない。スマホは子どもによくないと思うからだ。
「お金がないから貧しいんじゃない。貧困とは心の貧しさです」
「どんなエリートでも、夫が家に帰ってこないんじゃ幸せじゃない。うちの夫は家の仕事もいっしょにしてくれるし、幸せです」
そんな言葉が彼女の口からながれるようにでてきた。
夫も家事、夫婦関係が変化
近くに住む彼女の父母も生活改善に参加している。
父のダニエル(52歳)は難民だったが、帰国後しばらくして、2000年にこの地に入植した。やぶだらけの山を切り開き、オレンジやレモン、バナナ、カカオ、ランブータン、ライチを植えた。バナナはフィリピンやホンジュラスの品種、地元の品種などさまざま。失われた品種の復活にもとりくんでいる。25種類の果樹がたわわに実る山は、かつて訪れた愛媛の自然農法家、福岡正信さんの山に似ている。
ダニエルの家は昔ながらの日干しレンガの壁で土の床だ。
2015年から生活改善サークルに参加して何が変わったのかとたずねると、真っ先に夫婦関係をあげた。
以前は「台所や掃除を男がするもんじゃないと思っていた」。子どもの世話もまかせきり。ベッドの整頓もしたことがない。「だれよりも遅く起きて、だれよりも早く寝ていたよ」と笑う。奥さんは「忙しくても夫に水をくんできて、なんて頼めなかった。家のことを手伝えなんてこわくて言えなかった」と言う。
生活改善サークルに夫婦で参加し、合理的な生活をどう実現するかまなんだ。今は自分の服は自分で洗濯する。「私が命令したら何でもちゃんとやってくれる。幸せだよ」と奥さんは笑った。
「生活改善の意味は、土地を知り家族を知ること。家庭での責任をかんがえれば、やるべきことは見えてくる。今は2人で家族をささえる責任をになっている。2人の関係がよりちかづいたんだ」
ダニエルはそう言って、妻の肩を抱いた。(つづく)