飛騨高山に1週間住んでみた③多彩な食文化を一覧できる朝市

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カブや大根は焼畑の味

 高山には宮川沿いと高山陣屋前の2カ所で、毎日「朝市」がひらかれる。
 能登半島の輪島の朝市は海産物が豊富だが、高山の朝市は野菜や果物がたのしい。

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 宮川の朝市で最初に目にとびこんだのは、赤かぶや大根の漬物だ。土産物店では400円ほどなのに、おじさんが畑でそだてた野菜を漬けたものが250円。赤かぶは表面だけ赤いが、漬けることで全体が薄紅色にそまるという。
 甘酢漬けはもちろんおいしいけれど、昔ながらの塩漬けは乳酸発酵のすっぱさがたまらない。ブルーチーズとあわせるとワインのつまみにぴったりだ。
 大量にならぶカブや大根の漬物をみて、これらが焼畑の作物だったことをおもいだした。
 宮本常一は、日本の焼畑は南方系と北方系とにわかれるとかんがえた。飛騨はもちろん北方系だ。山を焼いた最初の年はヒエやソバをつくり、その後、大根やカブ、さらに小豆などの豆類をつくった。焼畑でそだてた大根には辛みがないらしい。
 南方系ではヒエのかわりにアワになり、大根ではなく、子芋や里芋をつくった。小豆は共通していた。
 焼畑というと原始的なイメージがあるが、自然にうまれた農法ではなく、大陸からの渡来人がつたえたと宮本は推測する。植えた作物の多くが渡来作物だからだ。
 林業で有名な奈良県の吉野では近世初期からスギの造林をしているが、雑木をかりとって焼き、ソバやヒエ、マメをつくり、その後に植林した。土佐でも、ソバ、ヒエ、マメをつくり、和紙の原料であるコウゾやミツマタを植え、10年ちかく利用したあとに植林した。スギ造林のさかんな地方には、焼畑のおこなわれていたところが多かったという。

日本ミツバチの蜜は超高級品

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 日本ミツバチのハチミツを売る屋台があった。
 日本ミツバチは野性のミツバチで、養蜂業者がつかうセイヨウミツバチよりも小柄だ。ハチミツは西洋ミツバチの蜜の3倍ちかい値段になる。
 和歌山県の熊野地方では、長さ約50センチの丸太の中身をくりぬいた「ゴーラ」を巣箱としていた。飛騨でも丸太をつかう人もいるが、今は、高さ20センチほどの箱をつみあげる重箱式巣箱が主流らしい。日本ミツバチは巣箱の上の方に巣をつくる。重箱型にしておけば、巣ができた箱をはずし、下から新しい箱をつぎたせるのだ。
 試食用の蜜300円をあじわってみた。さまざまな花の蜜を吸うためか、上品なやわらかい味でわずかに酸味もある。巣をかじるとやわらかなウェハースのようだ。
 中米のニカラグアの農場で、地蜂の巣をたべたことがあるが、シャリシャリとウェハースのような巣をかんで甘い汁を吸ったら、のこった巣の部分はペッとはきだした。日本ミツバチの巣はやわらかいから口のなかでキャラメルのようにとけてしまう。

北米インディアンもたべた果物

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果物では、「さんさ」「芳明」という品種のリンゴやシャインマスカットや巨峰がならんでいるが、「ポポー」(ポーポー)という果物ははじめてみた。
 アケビににているが、ツル植物ではなく、樹木らしい。高山では昔からたべているという。
 包丁で切ると、果実はうすいオレンジ色で、柿のような種子がある。果肉はねっとりしていて、バナナと柿の味に、マンゴーの風味をくわえたイメージだ。
 しらべてみると、北米原産でアメリカ先住民族も口にしていた。日本には明治時代にはいり、病害虫につよく無農薬で栽培できるため一時は庭木などにつかわれた。「アケビガキ」とよぶ地域もあるという。
 愛媛県大洲市長浜町では、ポポーをムラづくりの核にすえている地域もあるらしい。

格安でおいしい野菜の数々

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 里芋の葉柄のズイキ(芋がら)は各地でたべるが、サツマイモのツルが1束100円で売っている。たべたことはあるが、売っているのをみるのははじめてだ。ツルといっても、「葉っぱ」と「つる」のあいだの葉柄だ。
 ふつうは先端側から皮をむくが、けっこう手間がかかる。
「下処理がめんどうだよね?」と売り子のおばちゃんにたずねると
「この品種はやわらかいから皮をむかなくていいよ」
 長さ5センチに切って、油でいため、薄揚げと砂糖と醤油と、だし汁がわりに昆布をくわえた水でにこむだけ。シャキシャキしておいしかった。

【レシピ】http://www.reizaru.sakura.ne.jp/saru/?p=14722

12本100円という格安の万願寺とうがらしは、2日連続でたべた。
 1日めは白和え。2日めはジャガイモと牛肉とバター炒めに。肉厚で甘みが抜群だった。

【レシピ】http://www.reizaru.sakura.ne.jp/saru/?p=14716
     http://www.reizaru.sakura.ne.jp/saru/?p=14719

 トマト4個100円、ゴーヤ40円、モロヘイヤ100円……。朝市の野菜は格安でしかもおいしい。
 紫ニンニクという地元で種とりをしている在来種のニンニクもスーパーのニンニクよりはるかに香りがたかかった。(つづく)

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