本と映画と博物館– category –
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民俗知は可能か<赤坂憲雄>
■春秋社 20231119 民俗学には興味があるけど、それが今に生きる知恵としてどういう形で生かせるのか、と疑問に思ってきた。この題名を見たら、買うしかなかった。つい最近亡くなった石牟礼道子から、日本の民俗学の原点である柳田国男まで、さかのぼって... -
神とヒトがおなじ地平にいるヒンドゥーの魅力−−特別展「交感する神と人」ヒンドゥー神像の世界
ヒンドゥー教は「カースト」と直結して、厳格な身分制度をささえた宗教というイメージだ。 大学時代にインドをおとずれたときは、その「異界」ぶりに圧倒され、興奮と緊張の旅だった。でも短期間の滞在ではヒンドゥーの「差別」のイメージはぬぐえなか... -
四国遍路の世界<愛媛大学四国遍路・世界巡礼研究センター編>
■ちくま新書20231025 遍路道は世界遺産登録をめざしている。私が愛媛にいた2002年ごろからその動きはあったが、「ずっと先の話」と思われてきた。だが最近、外国人の遍路が急増し、世界の注目があつまってきたという。うれしいようなかなしいような……。 ... -
日本人の魂の原郷 沖縄久高島<比嘉康雄>
■集英社新書 202310 久高島は、隆起珊瑚礁の小島で最高標高は17.1メートルしかない。畑地には石灰岩が露出し、農耕に適していない。水は、雨水をサンゴ石灰岩が吸収し、岩のあいだからしみでる水をためた井泉(西海岸沿いに9カ所、ほかに2カ所)をつかっ... -
関東大震災を通じて現代を浮き彫りにする社会派ホラー 映画「福田村事件」<森達也監督>
1923(大正12)年の関東大震災直後の9月6日、千葉県福田村で、在郷軍人会にあおられた村民たちが、香川の被差別部落からきた薬の行商人9人を殺害した事件をもとに、森達也監督がつくりだした活劇。 朝鮮での教員時代に朝鮮人虐殺現場にかかわって傷つい... -
火の国の女の日記(上下)<高群逸枝
■講談社文庫20230924 高群逸枝の自叙伝。途中で亡くなったため、48歳から亡くなる70歳までは夫の橋本憲三が逸枝の日記などをもとにまとめている。「最後の人」の橋本は妻につくした聖人のようだが、この本でははじめ清らかな逸枝を翻弄するエゴイストとし... -
通史・足尾鉱毒事件1877〜1984<東海林吉郎・菅井益郎>
■世織書房20230801 田中正造記念館のスタッフに「足尾銅山鉱毒の全体像を知るのにおすすめ」といわれて購入した。1984年出版だが東日本大震災後の2014年に復刊した。 足尾銅山の開発は1610年ごろはじまり、銅の5分の4は幕府御用、残りはオランダに輸出さ... -
水底の歌 柿本人麿論<梅原猛>
■新潮文庫20230727 松尾芭蕉とならぶ日本最大の詩人である柿本人麿は長らく、島根県益田市の高津川河口の鴨島で死んだとされてきた。だが、そんな辺鄙な島で国府の役人が死ぬわけがない、と、斎藤茂吉は、海辺ではなく江の川上流の湯抱で人麿は死んだと... -
山に生きる 福島・阿武隈 シイタケと原木と芽吹きと<鈴木久美子・本橋成一>
東京新聞の女性記者が、阿武隈山地の里山の人々と、稀有な写真家の導きで成長する物語だ。 舞台は福島県の阿武隈山地にある旧都路村(2005年から田村市)。 都路は、全国でも有数のシイタケ原木の産地だった。「シイタケを栽培するための原木の一大生... -
出雲と大和 古代国家の原像をたずねて<村井康彦>
■岩波新書20230711 古典や神社の文書などの引用が多くて、読みやすいとはいえないけれど、中身は刺激的だった。 奈良盆地の、三輪山の大神神社や葛城の高鴨神社といった神社の祭神が出雲系で、丹波や富山、吉備、「国譲り」以前の伊勢にまで出雲系の信仰...